母の日イメージ

味気ないけれど、特別な思いを込めた母の日のプレゼント

私の家は、父子家庭というわけではありませんでしたが、小さい頃から母親に近づくことすらできない特別な環境でした。
というのも、私の兄が生まれつきの重度の身障者だったので、母は付きっきりで食事・排泄の世話、痰が喉に詰まって窒息しないように除去するなどの看護をしていたからです。
物心ついたときからの母の印象は、いつも兄を抱いて世話をしている姿しかありませんでした。
甘えたいときに甘えられず、一度も抱っこをしてもらった記憶がありません。
当時、同級生は野球やスイミングなどの習い事をしていたので、私もやりたいと母親に言ったところ、兄の世話で送り迎えをする時間がないから無理だと言われ、断られてしまいました。
田舎に住んでいたため、最寄りの野球教室は4km、スイミング教室は15kmも離れており、自分で通うには厳しい状況にあったため、断念せざるを得ませんでした。
このような家庭環境で育った私は、嫉妬心が強いひねくれた性格になっていってしまいました。
この兄と私との間に3つ上の姉がいましたが、姉は私と違って思いやりのある性格でした。
幼少の頃から、母の日には必ずプレゼントを渡しており、18歳で結婚して家を出てからも、必ず母の日が来ると実家に帰ってきてプレゼントを母に渡していました。
小さい頃からそんな姉の姿を見て、私もプレゼントを渡したいと心の中では思っていましたが、ひねくれた性格が災いして素直にプレゼントを渡すことができませんでした。
中学に入る頃には、12歳も離れた弟が生まれ、それまで末っ子気質で甘えん坊だった私の性格も徐々に改善されていきました。
しかし、心の奥底にある嫉妬心が強くひねくれた性格は残ったままで、それ以降も友人関係や恋愛関係において、自分自身を悩ませることもあったほどです。
私が中学3年生になったある日、部活を終えて家に帰ると親戚がたくさん集まって泣いていました。
そして玄関先にいた叔母から、兄が突然亡くなったことを知らされたのです。
私の家はとても田舎の地域にあるため、自宅葬が慣習となっています。
両親も姉も準備に追われてとても忙しそうでした。
葬儀も終わり、ひと段落ついたとき、兄が寝ていた部屋からすすり泣く声が聞こえてきたので、そっと覗いてみると姉が兄の使っていたベッドに寄りかかるようにして泣いていました。
そのとき、見てはいけない物を見てしまったような気がして、直ぐに覗いた顔を引っ込めて、その場を離れました。
私はこのときショックを受けました。
しかしそれは、姉が取り乱している姿を見たからではありません。
同じように母の愛情をあまり受けることができなかった姉があんなに悲しんでいるのに、自分自身は少しも悲しいという気持ちが湧いてこなかったからです。
自分には、人としての感情がないのかもしれないとさえ思ってしまいました。
それから時が経ち、私が社会人となって数年がたった頃に、父と母が兄が生まれた頃の話しをしてくれました。
私の家は元々ひどく貧乏だったらしく、兄の世話で母は勤めに出ることができない上に、治療費や入院費などがかさみ、相当お金に苦労したようでした。
身障者の手当てをもらっていても足りず、貯蓄も底をつき、挙句の果てに近所を回って頭を下げ、少しずつお金を貸してもらっていたのです。
その話を聞いた夜、布団に入りながら色々と物思いにふけりました。
そして、両親がそんなに苦労してきたのも知らずに、わがままばかり言って、兄に気が狂うほど嫉妬をしていた自分を振り返り、今までの自分が恥ずかしいのと憎らしいのとで、涙が溢れて止まらなくなりました。
兄はなりたくてあのような姿になったのではない、そして母も本当は姉や私のことも抱きたかったに違いない、それなのに自分は何で親孝行のひとつもしてこなかったんだと自問自答し、ひとつの結論にたどり着きました。
ちょうど母の日が近かったこともあり、その日に合わせてプレゼントを使用と思い立ち、一体何をあげたらよいのかひたすら悩みました。
数日後、ようやくプレゼントが決まりました。
それは何かというと、現金を渡すということでした。
現金と聞くと、味気ないように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、それまでの両親の苦労を考えるとどうしてもそれしか思いつかなかったのです。
アパート暮らしで給料も手取り15万円ほど、おまけにボーナスがない会社に勤めていたので、貯蓄をかき集めても70万円ほどしかありませんでしたが、それを母に渡しに実家に行きました。
母はいきなりの現金のプレゼントに、かなり驚いていました。
そして、こんなにはもらえないけど、今生活に必要な分だけということで、45万円だけを受け取ってくれました。
自作のプレゼントのようなカッコいい話ではありませんが、初めて親孝行らしいことをしたことで、今まで自分を苦しめていた呪縛からも解き放たれたような気がした特別な日でした。

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